第76話「田原俊彦in宝塚」後編
[box03 title=”第76話「田原俊彦in宝塚」後編”]あの頃のジャニーズ 夢と彼女とジャニーズと [/box03]
東京有楽町にある東京宝塚劇場(旧東京宝塚劇場)は、一見するとホテルのようなモダンな建築物である。
他の劇場とは少し「格が違う」ようなお洒落さと歴史を感じさせる。
僕はそのステージの上で「場当たり」と言う稽古の真っ最中だった。
この東京宝塚劇場は年間を通じて7ヶ月は宝塚歌劇団が公演している大劇場である。
他の劇場と1番違うのは、なんといっても有名な大階段と言うセットだろう。
ステージの奥に大きな板のように吊るされている「それ」は、活用時になると上から下げられ、斜めにスライドして階段としてセットされる。
その大掛かりなセッティングを目の当たりにして興奮と感動がにわかに湧いてきた。
テレビで見た事がある電飾された華やかな大きな階段である。
階段の一段の縦幅は24センチ(23センチと言う説もある)しかなく、普通に下りても25センチの僕の足がはみ出すほど狭い。
そして、実際に登っただけでとにかく揺れるのだ。
1人2人で踊っても揺れるのに何十人も乗って踊るのだから揺れかたも半端ではない。
その上僕の爪先は階段からはみ出してしまう。
ジャニーズジュニアのメンバーが階段に登る。
皆の第一声が「狭い!」「恐い!」だった。
僕より足のサイズが大きな人は当然階段から足がはみ出す。
ダンスは通常爪先に体重を載せて踊るものだが、階段では踵に体重を載せて踊らないとバランスを崩してしまう。
「宝塚歌劇団の人はみんなこの上で歌って踊っている」のだからやってやれない事はない。
階段の中程まで登って、自分の立ち位置に立ってみた。
稽古用の照明なので観客席まで見える。
ステージが少し小さく見えた。
やる気が沸いてくる。
ジャニーズジュニアも殆どのメンバーが階段に上がり振り付けのおさらいが始まった。
俊ちゃんのヒット曲メドレーは全て階段の上で踊るのだ。
『原宿キッス』と言う曲では片足を膝から上げた状態で踊るため、揺れる階段で片足でバランスを保たなくてはならない。
カウントに合わせて練習しているうちに、段々と恐怖心は克服できた。
後はどう格好良く踊れるかである。
下を見ずに正面を見ながら笑顔で踊らなければならない。
感覚で自分の立ち位置も把握した。
後は本番をミス無く乗りきるだけだ。
楽屋に戻り束の間の休息を取る。
この後はゲネプロリハーサルを行い本番を迎える。
突然大きな声が響いた。
「名倉加代子ダンスチームのリハーサルが始まったよ!」
とジュニアの誰かが言った。
すると楽屋に戻っていた半分以上のジュニアが走って舞台袖に向かった。
もちろん僕もだ。
この後直ぐにゲネプロリハーサルが始まると言うのに自分の出番よりも「見る事」を優先したかった。
みんな気持ちは一緒だろう。
ステージ上では既にプロダンサーによる位置決めが行われていた。
踊りを見た瞬間に衝撃を受けた。
無駄の無い動き、キレのある動き、そしてなんといってもユニゾン(全員が同じ振り付けを踊る)がピタリと揃っていて見ていて気持ちが良い。
ジャニーズジュニアのダンスは大雑把で雑なのが良く解る。
一挙手一投足に心奪われるほど凛としていた。
ゲネプロや本番が始まってしまうと見られない。
目に焼き付けるように真剣な眼差しで見ていた。
その場にいたジャニーズジュニアの面々も同じ思いであろう。
固唾を飲んでリハーサルを見入っていた。
リハーサルが終わると興奮覚めやらぬまま急いで楽屋に戻る。
途中でマッチとすれ違った。
ゲストでヨッちゃんと一緒に出演するのだ。
その場に居合わせたジュニアと挨拶をする。
「どんな感じ?」
と話しかけられた。
僕とジュニアの何人かでリハーサルの進行状況やコンサートの内容等を説明した。
「そう、頑張ってね!」
と親しみを込めて激励をしてくれた。
嬉しさが込み上げる。
気持ちが乗って充実していると時間が経つのが早いものだ。
ゲネプロリハーサルが始まった。
出番自体は少ないが、入念にストレッチをして出番に備えた。
思えば僅か10ヶ月前は田原俊彦のコンサートを舞台の袖から見て感激していた自分が、今日まさにバックで踊るのだ。
「凄い!」と思う自分と「まだまだこれから」と思う自分が心の中で戦っていた。
田原俊彦の宝塚劇場コンサートの本番が始まった。
目映いばかりの照明に照らし出されたステージの階段の上で田原俊彦のヒット曲メドレーを踊る。
ガタガタと大きな音を立てて揺れている大階段もオーケストラが奏でるヒット曲メドレーにその雑音は書き消された。
『NINJIN娘』と言う曲ではジャニーズジュニア全員が横にジャンプをする。
大きな地滑りのような横揺れが起きる。
しかしもう気にならない程集中していた。
覚えた振り付けを笑顔でしっかりと踊る。
ずっと憧れ続けた田原俊彦のコンサートでバックで踊っているのだ!
しかも、学校の教室で真似て踊っていたヒットメドレーをだ。
ただそれだけで幸せだった。
2日間にわたる『Toshi in 宝塚』の模様は後日『LOVE FOREVER 』(ラヴ・フォーエバー)と言うタイトルで映画化された。
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