Johnny's

第6話「進むべき道」

たけJI

[box03 title=”第6話「進むべき道」”]あの頃のジャニーズ 夢と彼女とジャニーズと [/box03]

ジャニーズ事務所に履歴書を送って、1ヶ月、2ヶ月、と過ぎたが何の音沙汰も無く、3ヶ月経った頃にはすっかり忘れていた。

テレビの世界では田原俊彦が『哀愁でいと』でレコード大賞の新人賞を取り、近藤真彦が『スニーカーぶるーす』でデビューをしていた。

その頃の僕は、大田区蒲田に叔母さんが小さなスナックをオープンしたので店を手伝っていた。

4~5人が座れる小さなカウンターと、狭いボックス席、半畳ほどのステージがあるカラオケスナックだった。

叔母さんは僕の父の妹でしわがれた声が印象的だった。

数ヶ月前に開店し、最初の日に人手不足のため洗い物を手伝ったのをきっかけに入り浸っていた。

それでも一応、身なりはYシャツに蝶ネクタイ、黒いベストにサロンを巻いた「黒服」の格好である。

そんな恰好をするのが嬉しかった。

お客さんが来て店のママの甥っ子である事を紹介されると決まってカラオケのリクエストがある。

その時は「田原俊彦」や「近藤真彦」の歌をカラオケで歌った。

その事も楽しかったが、他の仕事も楽しかった。

叔母はグラスの洗い方や、アイスピックでの氷割り、ウイスキーの種類、美味しい水割りの作り方などを教えてくれたが、中でも料理を教えてくれたのが1番嬉しかった。

ある日、目の前に座った恰幅のいい白髪交じりの常連のお客さんが「ママの甥っ子が作った肉野菜炒めが食べたい! 」と注文が入った。

叔母さんは「作ってみる? 」と笑いながら食材を用意してくれた。

僕は断る理由もなく、ドキドキしながら頷いた。

まな板の上に並べられた野菜を切る。

料理は家でも自分で作っていたが、人様からお金を取って作るとなると初めてなので緊張する。

増してや、お客さんの目の前で作る公開料理だ。

目の前では楽しそうに常連のお客さんが見ている。

叔母さんが「野菜は一口大の大きさに切って」と横で指導をしてくれる。

人参、玉ねぎ、ピーマン、キャベツ、椎茸、すべてを切り刻む。

ガスに火を着けフライパンを置く。

「少しフライパンを暖めて煙が出てきたら油をいれて!」

言われた通りにした。

「最初にお肉、次に根菜類ね、人参をいれて! 」

と言われ、人参を入れてさえ箸でかき混ぜる。

「お肉と人参に火が通ったら残りの野菜を入れて!」

言われた通りにすると「ジュッー」と良い音と共に火が立ち上った。

「フライパンをゆすって、直ぐに塩を摘まんで一振りして!」

言われた通り塩を摘まんでフライパンに回すようにかけた。

「塩をいれると青物がいい色のままになるのよ! 」と教えてくれた。

「火が通ってきたら、お酒とみりんを入れて」

入れた瞬間、炎が立ち上がる。

気にせず、フライパンを煽った。

「最後に醤油をフライパンの回りに垂らすように回していれて!」

言われた通りにすると、ジュッーと言う音と共に香ばしい香りが立ち込める。

出来上がった野菜炒めを大きな皿の上に盛り付けると叔母さんが鰹節をかけて常連のお客さんに出した。

「おおー! 出来たか! 」と言って一口頬張る。

「旨い! お世辞じゃなくて本当に旨いよ! 初めて作ったにしては上出来だ! 一生懸命作ったから、余計においしいよ! 」

と言われた。

「チップだ!」

と言って千円札を渡された。

「あら、いいわねー!」

と、言いながら、貰うようにと叔母さんは笑顔で言った。

「君は、料理の才能があるよ! また、食べに来るから頑張って!」

ここには小さな居場所がある。

学校を辞めて水商売の仕事をしたいと本気で思い始めた。

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