第114話「last year 1984」
[box03 title=”第114話「last year 1984」”]あの頃のジャニーズ 夢と彼女とジャニーズと [/box03]
「1983」と言う数字が「1984」と言う数字に変わった。
「1年」が終わり「1年」が始まろうとしていた。
ブラウン管の向こうの世界からは「明けまして、おめでとうございます! 」と言う明るい声が頻繁に流れている。
「普通の女子大生」が「アイドル」になって深夜テレビに出ている。
特に見るつもりはない。
ただ、ぼんやりと眺めている。
去年は「18歳」になり「やっと大人の仲間入り」と言う感じがして何か始まりそうな気がしていた。
実際に免許証を取得したり、テレビドラマに出演したり、たくさんの経験をした。
「19歳」と言う響きは嫌いだった。
本当の「成人」を迎える一歩手前で子供ではなく、かと言って世間から認められる大人でも無い。
「20」と言う年齢になるまでに、何か答えを出さなくてはならない切羽詰まった感じがする。
気持ちは焦っているにも関わらず、年末は酷いものだった。
「レコード大賞、新人賞」を受賞したのは「野村義男」率いる「THE・Good-Bye」だった。
「バンド」なのだから「後ろで踊る」必要は無い。
「俊ちゃん」はピン(1人)」で歌って踊り、「マッチ」はバラード調の曲や「聞かせる」曲に移行している。
「シブがき隊」は2年目を迎えて「バック」で「ジャニーズジュニア」無しで歌っている。
「歌謡賞関係の番組」には一切出演する事なく、スケジュールなど無いまま歳を越した。
1年前は「シブがき隊」の「歌謡大賞」のバックで踊り「近藤真彦 in 武道館」では何曲も振り付けを覚えバックで踊り、大晦日の「レコード大賞」にも「シブがき隊」のバックで踊り、「クリスマス」から「大晦日」まで忙しい日々を過ごしたのが嘘のようだ。
テレビの中の「THE・Good-Bye」を見ながらふと思った。
「もしも、あのオーディションの時にギターを弾いていたらメンバーの中に入っていたのだろうか・・・? 」
答えは「NO」であろう。
「THE・Good-Bye」のメンバー程、楽器を上手く演奏する事は出来ない。
それに「ミュージシャン」向きの人間でも無い。
だとすればオーディションで歌を歌って「ジャニーズジュニア」になれた事は結果的に良かった事なのだろうか?
数々のチャンスがあったと思うがそれを逃したのだろうか?
その答えはまだ出ていない。
正月を迎え10日もすれば、すぐに誕生日を迎え「19歳」になる。
「ジャニーズジュニア」の中でも最年長の「19歳のジュニア」となる。
「18」と「19」。
たった1歳の違いだが、僕には重さが違う。
学校の同級生や、地元の幼なじみは、専門学校に通い先々の就職先を決めていたり、既に働いていたりと、それぞれの道に進んでいる。
それに比べて僕は「ジャニーズジュニア」をしている。
「夢はあるが収入は無い」状態である。
親にも「そろそろ先々の事を考えなさい。」と言われ始めた。
「明治生まれ」の婆ちゃんに至っては「男がいつまでも腰降って踊ってないで、ちゃんと働け!」と山形弁で言われる始末だった。
精神的に追い込まれる中で、唯一の心の拠り所は「彼女の存在」だった。
「頑張っていれば、いつかは結果が出るよ」
そんな言葉に揺らぐ心は何度も救われた。
「ジャニーズ」の中で同じ年は「マッチ」に「ヨッちゃん」である。
既に芸能人としての地位を築き上げて、遥か頭上にいる「大スター」だ。
1学年下が「シブがき隊」の3人と「少年隊」の「ニッキ」である。
もっとも、僕がジャニーズに入る前からいたので先輩と言う事になる。
「大沢樹生」君や「内海光司」君、「宇治正高」君も学年は3~4年下ではあるが先輩と言う事になる。
「三好圭一」君は2学年下でほぼ同期か少し僕が早いかである。
テレビドラマ『家族ゲーム』でブレイクして以来、ドラマに出続けている。
年下の仲間にどんどん先を越されていく。
歯がゆい気持ちと挫折感が交差する。
かと言って自分ではどうすることも出来ない。
思いはただ一つ。
「ジャニーズでデビューする事。」
今年は絶対にチャンスを物にしてのし上がってやる!
と気合いだけは入っていた。
もしも今年の年末に、まだ仕事が「あるのか無いのか解らない状態」だったら、いや「ジャニーズジュニア」のままだったら、その時には覚悟を決めよう。
「20歳のジャニーズジュニアはあり得ない。」
僕にとっての「last year」にしよう。
今年が最後のチャンスだと言い聞かせた。
正月休みが終わる頃、やっとジャニーさんから電話がかかってきた。
「少年隊がビデオデビュー」をするから、それに向けてリハーサルに入る事と「NHK」の『レッツゴーヤング』でもバックで踊る事になりスケジュールを知らされた。
後れ馳せながらやっと僕の「1984」年が始まった。
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