第130話「last call~別離(わかれ)」
[box03 title=”第130話「last call~別離(わかれ)」”]あの頃のジャニーズ 夢と彼女とジャニーズと [/box03]
その日、彼女から電話がかかってきた。
ディズニーランドへ行って以来、1週間ぶりの彼女からの電話だった。
その間にピンクレディーの復活コンサートなどがあり、電話をしないでいた。
今まで3日以上間隔が開いたことは無い。
「もしもし! 久しぶりだね!」
と言って出た。
「・・うん。」
しばらくの間息遣いだけが聞こえた。
「どうしたの?」
と聞く。
それでも彼女は何かを躊躇(ためら)っているかの如く、口をつぐんだままだ。
そして息遣いのリズムが途絶えたその瞬間、蚊がなく程の小さな声で言った。
「わかれよう。」
「えっ?」
耳を疑った。
しかし今度は大きな声ではっきりと言った。
「もう、別れよう。」
余りにも予期しなかった言葉に狼狽(うろた)えた。
「もう、別れた方がいいと思うの・・お互いのために」
と彼女が言葉を続ける。
「お互いのため?」
真意が見えない。
「うん。今のままだとお互いが駄目になっゃうと思うの」
今度は僕が黙った。
予期しなかったと言うよりは、1週間電話が無かった時点で予期していたかも知れない。
「別れたくない」
言葉が自然に出た。
「このまま、中途半端なまま付き合っていてもお互いの為に良くないよ!」
「嫌いになった?」
と聞いてみる。
「ううん好きだよ! だから別れよう。」
意味が解らない。
「今からそっちに行くから会って話そう!」
「駄目! 来ないで! 逢ったら決心が揺らぐから! また別れられなくなるから!」
「このまま、この電話1本で別れるつもり?」
「決心するのにどれだけ勇気がいったか解る? この1週間ずっと考えて出した答えなの」
言葉が出てこない。
「これが、最後の電話?」
「うん、もう電話もしない。」
「4年付き合って、この電話1本で終わり?」
「4年、長いようで短かったね」
彼女の決意を改めて感じた。
「いつも頑張っているあなたが好きだった。一生懸命頑張っているあなただから好きでいられた。だから・・」
「だから?」
「これからも好きなことを頑張って、一生懸命なあなたでいて下さい。」
「あきら」と呼んでいた彼女が初めて面と向かって「あなた」と言った。
この言葉が心にズシーンと響いた。
彼女の中では、もう既に決別していると言う事だろう。
そのことを感じた瞬間、僕の中でも何かが弾けた。
うろたえるな。
しっかりと受け止めろ。
取り乱すな。
そんな心の呟きが聞こえた。
彼女の中では僕はもう過去の人間になったと感じた。
だったら、最後まで未練がましくしてはいけないと思った。
彼女がはっきりとした声で言った。
「4年間ありがとう」
彼女の覚悟が伝わった。
決心がついた。
「わかった。」
もう、どんなに言葉を伝えても、どんなに心を伝えても彼女の決意は変わらないのだと知った。
格好悪い事はしたくない。
女々しく或いは強引に抵抗した所で、彼女の気持ちを変える事は出来ないだろう。
一瞬、初めて話しをした時の顔を思い出した。
高校2年の夏休み、社員通用口で見たドキッとしたあの笑顔。
初めて一緒に通学した時の事を思い出した。
二子玉川駅のホームで佇んでいた制服姿の彼女。
初めて口づけをした時の事を思い出した。
横浜山下公園のベンチ。
こらえていた熱いものが頬を伝った。
もうあれこれ言うまい。
言わなきゃいけない言葉はたった1つしかない!
言いたくは無いが、言わざるを得ない!
「今までありがとう。 さようなら。」
その瞬間、受話器の向こうからすすり泣く声が聞こえた。
そしてまた、小さな声が聞こえた。
「さよなら」
それは長かったのか、一瞬だったのか解らないがお互いに受話器を置くのを躊躇(ためら)った。
その瞬間だけが、お互いに本気で愛し合った証だと思った。
僕は受話器を置いた。
涙が零れた。
その時にふと、付き合い始めたばかりの頃の会話を思い出した。
「先に電話切って!」
「そっちが先に切れよ!」
「じゃあ、いっせーのせで切ろうか?」
「うん、そうしよう!」
「いっせーの、せ!」
二人の恋に終止符が打たれた。
2階の自分の部屋に向かった。
机の上には彼女の名前が大きく彫ってある。
引き出しの中には彼女からの手紙が100枚以上ある。
初めて貰った手紙はA4サイズのノートを切って折り畳んだものだ。
「あー君、大好き!」
「いつも待っててくれてありがとう!」
「ずっと、ずっと好きだからね!」
そう書かれた手紙を1枚ずつ開いてはビリビリと破りゴミ箱へ入れる。
彼女と出会ったお陰で、高校に行くのが楽しくなった。
彼女がいたから自分に自信が持てた。
初めての経験、初めての人、何もかも彼女が始まりだった。
電話をすれば必ず応えてくれた。
「もう二度と電話をする事はないんだ」
そう呟いた。
心の中で何かがポキッと折れた。
もっと優しくしてあげれば良かった。
もっと何処かへ連れて行ってあげれば良かった。
もっともっと、たくさん愛してあげれば良かった。
その日、僕は1番大切なものを無くした。
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