Johnny's

第20話「オーディション」(熱唱)

たけJI

[box03 title=”第20 話「 オーデション 」(熱唱)”]あの頃のジャニーズ 夢と彼女とジャニーズと [/box03]


自分の順番が来たので、客席の間の通路を降りてステージにかけられた階段を登った。

初めて、ステージの上に立った。

証明が眩しい。

目の前に審査員用のテーブルが並べられ、その中にジャニーさんとよっちゃんがいた。

10人がステージ上に並び、一人を残して袖に歩いて行く。

僕は用意されたパイプ椅子に腰をかけた。

心臓はバクバクと異常な早さで脈うっている。

「どうしよう!」

喉は渇き、心臓が口から飛び出るのではないかと思う程に緊張している。

この場に及んでまだ「何をするか」を決めてはいないのだ。

考えても何も思いつかない。

前の人が呼ばれた。

もう時間がない。

「歌をうたおう!」

と、心の奥の自分が言った。

「えっ、でも何を?」

と自問自答した。

そう思っている間に僕の番が来てしまう。

「次の方どうぞ!」

順番が来た。

「やるしかない!」

僕は意を決して歩き始めた。

センターマイクの前に立ち、番号と名前を言う。

ギターを持つわけでも無く、他の楽器に向かうわけでもない様子に「あなたは何をやりますか? 」と尋ねられた。

地明かりの照明に照らし出された「そこ」は、明らかに人生の分岐点だった。

心臓の鼓動は最高潮に高鳴っている。

咄嗟に言葉が出た。

「歌を歌います!」

会場はしらけた空気が漂った。

おおよそ、見当違いの発言をしたように会場内を沈黙が支配した。

「何を歌いますか?」

スタッフが聞いてきた。

「イルカさんのなごり雪を」

「キーは?」

今度は後ろから声が聞こえた。

キーボードの人だった。

「Fでお願いします!」

唯一、家でギターを弾いていた時にコード進行を完璧に覚えていた曲である。

キーが高い僕は、歌える曲目が少く『なごり雪』を何度も歌っていたので歌詞も完璧に覚えていた。

聞き覚えのあるイントロが流れてくる。

ステージの上でスポットライトを浴びながらスタンドマイクの前に立つ。

高鳴っていた心臓が不思議と落ち着いてきた。

両手でスタンドマイクを握り一瞬、目を閉じて深呼吸をする。

そして呟くように『なごり雪』を歌い始めた。

歌いだすと心臓の高鳴りがさらに穏やかになった。

「気持ちいい!」そう思った。

光の中でマイクに向かって自分の中にあるエネルギーを歌に変えて叫んだ。

すると、ふと彼女の顔が浮かび鳥肌が立った。

彼女の顔を思い浮かべながら目の前に広がる、真っ暗な客席に向かって思い切り叫んだ。

この歌詞が彼女に届くようにと思いながら歌った。

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