Johnny's

第29話「トシちゃんじゃない!」

たけJI

[box03 title=”第29話「トシちゃんじゃない!」”]あの頃のジャニーズ 夢と彼女とジャニーズと [/box03]


地下の駐車場から坂道を上がり地上に出る。

するとキャーッ!と言う物凄い叫び声が辺りから巻き起こった。

県民ホールの駐車場の出口から道路に出る寸前で、マネージャーが急ブレーキを踏んだ。

「あっ!」と言う間に車の前後左右に何百人といるファンに取り囲まれてしまった。

それはまるで映画『バイオハザード』のゾンビに囲まれたような一瞬の出来事だった。

マネージャーがクラクションを鳴らすがファンの娘はたじろぎもせずに増えて行く。

警備員が何人かで押さえようと怒鳴っているが何の役にも立たない。

車の窓ガラスが何人ものファンに素手で叩かれる。

窓ガラスが割れるのではないかと言う恐怖感が沸いて来る。

車がユサユサと揺れた。

僕は恐怖を感じた。

何百人ものファンが「俊ちゃん!」と言って叫んでいる。

僕は心の中で「僕は俊ちゃんじゃない!」と叫んだ。

間違われている恥ずかしさと恐怖心で僕はうつむいた。

このままでは本当に車が押し潰されてしまう。

マネージャーが「俊は乗ってない! 道を開けろ!! 」

と半分キレて怒鳴った。

続けてコチラを向き「窓を開けろ!」と言った。

隣に乗っていたスタッフが右側にある衣装をどかして両サイドの窓を開ける。

「見てみろ! 俊は乗ってないだろ!」

とマネージャーが絶叫する。

歓声がどよめきに変わっていく。

「誰?あの子」

「あれ、俊ちゃんじゃない!」

「違う!」

「あの子誰?」

「ジュニアの子?」

「俊ちゃん乗ってない!」

「なんだぁー!」

「乗ってないって!」

「エッー!」

と車の近くにいるファンから徐々にクールダウンしていくのが解った。

僕は屈辱感を感じながらもなすすべなく下を見るしかなかった。

自分が人を騙しているような気になる。

ようやく警備員が道を確保し車が動き出した。

角を曲がり大通りに出ようとすると事情を知らないファンが数十人、車を追いかけて来たが青信号と共に振り切った。

乗車していた4人が一斉に溜め息をついた。

車は神奈川県民ホールを離れ、高速入り口に向かった。

そこからは、少し和やかな雰囲気になった。

高速に乗ると、車内では質問が矢継ぎ早に浴びせられた。

名前や年齢、住所、身長、ダンス歴の有無、ジャニーズ入った経緯を聞かれ、あたかも取り調べみたいだと笑った。

車は神奈川県から東京都心に入り高速を降りた。

どうやら、両サイドに座っているスタッフが事務所に行くため車を降りるようだ。

車は六本木を過ぎて、溜池周辺で止まる。

大きなビルの前で両隣に乗っていた2人が車を降りた。

どうやらこのビルに事務所があるらしかった。

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