第83話「谷村新司の主題歌と断髪式」
[box03 title=”第83話「谷村新司の主題歌と断髪式」”]あの頃のジャニーズ 夢と彼女とジャニーズと [/box03]
『オサラバ坂に陽が昇る』と題するこのドラマは「少年の家」と言うサブタイトルが付いている。
『愛誠学園』と言う養護施設が舞台の物語である。
この『愛誠学園』と言う養護施設に居る少年は「少年院に入る程ではない」悪さをした少年達や児童虐待、家庭環境に問題があると認められ、家庭裁判所で家庭や両親の下では更正に差し支えがあると思われた場合に送致されて来る施設だ。
その愛誠学園の中に、若葉寮、光明寮、新生寮、青志寮、希望寮と5つの寮があり1つの寮に寮生が9人ほど一緒に住んでいる。
寮長とその家族と、一緒に生活をして更正をしていくと言う場所であり、その場所で起こる様々なドラマがこの物語である。
ディレクターによる出演者の紹介が一通り終わると、今回のドラマの主題歌の発表が行われた。
今回は「谷村新司さん」の『小さな肩に雨が降る』と言うオリジナル曲だと発表された。
皆から感激の声が上がった。
アリスとして活動、活躍してヒット曲を連発していた谷村新司さんを知らない者はいない。
その谷村新司さんが今回のドラマの為にわざわざ作詞、作曲をしたとディレクターが伝えた。
その事に対する感激と、当然曲のヒットと視聴率への期待も織り交ざってさらに歓声が上がった。
出演者1人1人にまだ未発売のサンプルCDがプレゼントされる。
みんな満面の笑みで喜んだ。
続いて制作に関する説明に入った。
ロケ現場は「相模湖ピクニックランド内」にオープンセットが組まれそこが愛誠学園になる。
そしてロケに関する資料を渡された。
『オサラバ坂に陽が昇る』と表紙に印刷されていて薄い台本のようだ。
相模湖ピクニックランドの地図が見開きで記載され、それぞれに、若葉寮、オサラバ坂、椎茸畑、つり橋などとロケ現場が詳細に書かれた地図や、電車やバスで行く時用の時刻表などが載っていた。
そしてもう1つ薄い台本のような資料が配られた。
緑山スタジオに関する資料だった。
こちらも詳細な地図と連絡先、スタジオ内の見取り図なども書かれている。
このドラマに関係した人にしか手に入らない資料を貰って僕はワクワクしていた。
そしてディレクターが大声で言った。
「第一話の収録は3月11日のロケからスタートします!」
そう発表されると更に活気づいた。
もうクランクインまで数日である。
そこまで説明すると
「ここで暫く休憩に入らせて頂き、断髪式の用意をしたいと思います!」
とディレクターが発表して休憩に入った。
ここぞとばかりに、報道関係者がカメラを手に出演者のもとに行きインタビューを始めた。
堰を切ったように緊張感が溶けて一瞬にして和やかな雰囲気になった。
報道陣が取材をしているのを横目に、僕は若葉寮生の年齢が近そうな仲間のもとへ行く。
三好圭一君と、その隣の北川剛君の近くへ行き話しかけた。
三好君が「先輩!」と呼ぶので、北川君がどう言う関係か聞いてきた。
「同じジャニーズ事務所の先輩、後輩です!」
と三好君が話す。
「ジャニーズって厳しいんだ!」
と北川君に言われ思わず苦笑した。
三好君以外はみんな「君づけ」で呼ぶ世界だから厳しい訳ではない。
北川君のイントネーションが気になったので聞いてみた。
すると本来、関西弁なのだが今回の「松村史郎と言う役」は標準語で話さなければならず、普段でも標準語を話すように特訓しているとの事だった。
「関東の言葉はイントネーションが難しいから喋りにくい!」
と言うのが彼の言い分だ。
隣に座っていた斎藤康彦君も話しに入ってきた。
最初の印象は「気難しそうだ」と思ったが話しを始めるととても饒舌で笑わせ上手だった。
三好君、北川君、斎藤君とはすぐに打ち解けた。
他愛のない談笑していた時だった。
「準備が整いました!」
とディレクターからの声がかかった。
1番前のテーブルが片付けられて、椅子が横一列に並べられている。
そこに座るように言われて三好君、斎藤君、北川君、らの若葉寮生が座り、エプロンをつけスタンバイが整った。
「それでは断髪式を始めます!」
とディレクターから声がかかりバリカンを持ったスタッフがおもむろに額の真ん中にバリカンを当てた。
報道関係者が一勢にフラッシュをたく。
バリバリと言う音と共に頭部の真ん中が青白い地肌に変わって行く。
「あっ! あっ! あーあー!」
と三好君が惜しむように奇声を上げた。
大爆笑を誘う。
スタッフ、共演者、報道関係者もカメラマンも笑っている。
リアクションとしては最高だった。
ここで報道関係者の要望でイルカさんと伊藤つかさちゃんがバリカンを手に取り断髪している写真を撮った。
このシーンはテレビのワイドショーで流れたり、週刊誌に掲載されたりした。
最初のメンバーが終わると今度は僕と残りのメンバーが座った。
準備が整う。
バリカンのひんやりとした感触を額で感じた。
音と共に頭の真ん中が刈られて行くのがわかる。
リアクションは出来なかった。
ただ別の自分になるんだと強く思った。
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