第87話「高校卒業とジャニーズジュニア」
[box03 title=”第87話「高校卒業とジャニーズジュニア」”]あの頃のジャニーズ 夢と彼女とジャニーズと [/box03]
高校の卒業式を迎えた。
3年間通った学校をこの日卒業する。
特に感慨深い物はない。
履歴書の最終学歴に「高校卒業と書ける」だけだ。
僕にとって高校とは果たして何だったのだろうか?
高校1年の時にはすでに学校に通う度に「希望」は「失望」に変わっていた。
退廃した空気。
やる気の感じられない教師と授業。
魅力を感じない部活動。
学校に面白さは皆無だった。
興味が湧いたのは誰かのケンカの話やバイクを乗り回した話。
魅力的に見えたのは皆「不良と呼ばれる奴ら」だけだった。
太いズボン、ぺちゃんこの鞄、茶色い髪に煙草にシンナー。
僕の周りはそんな友達ばかりになっていった。
僕自身も影響され、髪を染めてバイクに乗り、酒を飲み、煙草を吸い、学校もサボるようになった。
繁華街にあるゲーム喫茶に行ったり、新宿や渋谷のディスコに通い始めた。
ただ唯一シンナーだけには手を出さなかった。
自分を壊すような事はしたくなかったからだ。
そんな中で友達が停学になり辞めていく。
無意味な授業を受けてズルズル学校に通うより、スパッと辞めて自分の力で働いて稼いで生きたいと思った。
「学校を辞めて働きたい!」
と親に言った。
しかし結果として母親を泣かせてしまい、辞める事だけは思い留まった。
とりあえず親の為に学校は通う事にした。
それが高校2年になり夏のアルバイト先で彼女と出会い付き合い始めると、一気に生活が変わった。
それからは高校生活が楽しくなった。
毎日一緒に通学をし、一緒に遊び1秒でも一緒に居たくて、毎日何時間も電話で話しをした。
初めてのキス、初めての夜を過ごし初めての女性になった。
「高校を卒業したら」
先の事は解らないが、漠然と「料理を作り、店を持ち一緒に暮らす」そんな未来予想をしていた時期もあった。
しかし、高校2年から3年になる春に人生が激変した。
「ジャニーズ事務所に入った」のだ。
生活が激変した。
毎週日曜日ダンスレッスンに通い、憧れていた田原俊彦や近藤真彦に会い、そのバックで踊るようにまでなった。
そして高校卒業後にはテレビドラマに出演する事が決まっている。
傍から見ればきっと、充実した高校生活に見えるだろう。
学校に通い続けられたのは彼女とジャニーズのお陰だった。
振り返ってみればつくづくそう思う。
しかしその彼女とも最近は少しすれ違い始めていた。
高校を卒業したら銀行に勤める彼女と、芸能界に進む自分とでは物事に対する考え方や温度差が違う。
しかしだからと言ってそれまでの思いを捨てて別れる気にはなれない。
それは彼女も同じようだった。
数日前に貰った手紙にもその気持ちが切々と書き綴られていた。
いつもは「あきら」と名前で書いていたのに、初めて「あなた」と書いてあった。
出会ってから今までの事そしてこれからの事。
ビジョンが見えないままではある。
しかし「別れられない! そして別れたくない!」と彼女の言葉から思いが伝わってきた。
僕の中でも彼女の存在は大きい。
かけがえの無い大事な恋人である。
僕はその気持ちを彼女に伝えた。
「卒業式に一緒に行く事は出来ないが二人で卒業のお祝いをしよう!」と。
二人きりの大人のデートをしようと提案した。
彼女は心よく承諾してくれた。
その時に滑稽かも知れないが伝えようと思った。
「今は、まだ、ただのジャニーズジュニアで、その他大勢の中の一人だけど・・」
「今度のテレビドラマに出演して少しでも知名度が上がればジャニーズジュニアでも仕事が入ってくると思う。」
「仕事が入ってくれば多少は出演料が入り経済的に楽になると思う。」
「その基盤が出来たら、二人の先の事を考えよう!」と。
この先1年か2年で絶対に売れて「指輪を買ってあげたい」と思っていた。
ジャニーズジュニアを卒業して、早く一人前のタレントになりたかった。
高校の卒業式当日。
原付バイクで学校の近くまで行った。
坊主頭で制服を着て電車に乗るのは嫌だった。
学校の制服は学ランではなく紺色のブレザーだ。
ネクタイも紺色である。
坊主頭と紺色のネクタイにブレザーは見事に似合わない。
時間ギリギリに教室に入り体育館で行われた式典でもひたすら時間が過ぎるのを待った。
卒業証書を貰うとすぐに帰宅した。
卒業に対して何の感激も無かった。
亀甲柄の筒の蓋をあけると卒業証書と書かれた1枚の紙切れが出てきた。
これを貰う為に3年間通い続けたのだ。
ただそれだけだ。
明日からは学校へ行く事は無いと言う安堵感、解放感があった。
むしろこれから出演するドラマが今後仕事になるのか?
社会的に認められるのだろうか?
そしてジャニーズで何処までやっていけるのか?
そんな事を考えていた。
その日はそのまま予約してあった自動車教習所に向かった。
暫くは教習所通いが日課になる。
仮免許を取得したので、あと少し頑張れば教習所も卒業出来る。
テレビでは、「マッチ」が「日産マーチ」のCMに出演している。
「マッチのマーチ」
いつか、自分も車のCMに出演できた時のために、免許証は取得しておきたい。
いつか、自分の車を持ちたい。
まずは、小さな目標からコツコツと叶えていく。
「夢はあきらめない!」
静かな闘志が湧き上がってきた。
高校卒業と同時に「新たなる人生」が幕を開けるのだった。
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