第113話「彼女と映画と蒲田行進曲」
[box03 title=”第113話「彼女と映画と蒲田行進曲」”]
あの頃のジャニーズ 夢と彼女とジャニーズと [/box03]
少年隊の「あいつとララバイ」出演後、さらに「テレビ東京」や「NHK」の「レッツゴーヤング」などの番組に出演した。
リハーサルや振付などが続き、多少仕事が繋がっていた。
とは言っても、収入の面では無いに等しいが、行動をしている事で精神的には気持ちは楽になっていた。
時間が過ぎていくのは早い。
季節は秋から冬へと移り変わり、いつしか街中では「クリスマスソング」が流れ年末の気配が漂っている。
1年前の今頃は高校生で、マッチのコンサートのリハーサルや、歌謡賞などの出演で慌ただしかった。
今年は社会人として過ごしているが、仕事がある日と無い日があり、無い日の方が多い。
そんなおり、彼女から「どうしても一緒に見たいビデオがある」と言われた。
彼女は普段銀行に勤めているので、彼女の休みに合わせて自宅にお邪魔した。
久しぶりに尋ねた彼女の部屋には「こたつ」が用意されていた。
妹と一緒の部屋だが今日は出掛けて、いないらしい。
「こたつ」に足を入れるとポカポカと暖かい。
「これ食べて!」
と、目の前にミカンを置いた。
食べようと皮を剥く。
4つに割いて取り出したミカンを半分に割りそのまま口に頬張った。
甘酸っぱい。
そんな僕の動作を見てクスクスと笑った。
「ヒモ取らないんだね? 」
「ヒモ? 」
「これ! 」
そう言ってみかんの皮と身の間にある白いヒモ状のモノを指さした。
「面倒くさいじゃん!! 」
「飢えた子供みたい!」
と言って笑った。
「あのね、どうしても一緒に見たかったからビデオに取っておいたの」
と、ビデオをセッティングしながら言った。
テレビで放送された映画を録画して取っておいたらしい。
「蒲田行進曲って言うんだけれど、めちゃくちゃ泣けるよ! 」
彼女に説明されてもその時は「蒲田行進曲」については何も知らなかった。
ビデオの「再生ボタン」を押して映画が始まった。
画面には古い行進曲が流れ、昔の映画スターの写真が写し出された。
そして、映画の撮影所で屋根と屋根の間に暗幕がかけられ、巻き降りて「松坂慶子」さんのナレーションが被さる。
「映画の撮影所と言う所は本当に奇妙で不思議な世界です。偽りの愛さえも本物の愛にすり替えてしまうような、この世界では昼を夜にすることなど、朝飯前の出来事なのでした。」
と、映画の内容をさらりと説明する。
時代劇の撮影風景が始まり、直ぐに僕はのめり込んだ。
「新撰組の土方歳三」を演じるのが映画スター「倉岡銀四郎」通称「銀ちゃん」である。
演じるのは俳優、風間杜夫である。
そして何人もいる「銀四郎の付き人」の1人が「大部屋俳優」の「ヤス」である。
演じるのは俳優、平田満だ。
ある日「銀ちゃん」から、妊娠4ヶ月でお荷物になった「元女優」の恋人「小夏」を押し付けられる。
「ヤス」は立場もあり断れずに「小夏」と「お腹の子」を養うために、無茶な仕事を始める。
「斬られ役」「殺られ役」飛び降り、爆破シーン。
「小夏」と「産まれてくる子供」の為にありとあらゆる仕事をこなして行く。
怪我をしながら「大部屋俳優」が集まって「この役やる奴はいるか?」と「キャスティング」をしていると「はい! はい! 俺やります! 」と血相を変えて仕事を取る「ヤス」。
「ヤスさん! 大丈夫なの! これで3本目だよ!! 」
と心配をよそに「コレがコレなもんで、てへへ」と小指を立てた後に両手でお腹が膨れているジェスチャーをした。
そのシーンを見た時に胸がジーンと熱くなった。
隣の彼女を見ると、すでに両目から溢れだした涙をぬぐっている。
「もう、こっちは見なくていいの!」
と言いながらタオルを目にあてていた。
物語は進み二人は「ヤス」の故郷「九州の人吉市」に帰省をする。
すると町を上げての大歓迎であった。
そして小夏は、ヤスの母からも「息子を捨てないでくれ」と頼まれる。
「私はいいんよ。お腹の子供が誰の子でも・・・」
と「ヤス」の母親に言われて「はっ」となる小夏。
小夏はヤスと結婚をする。
その頃「銀四郎」は、主演映画の主役の座を奪われつつあった。
「ヤス」の陣中見舞いに弁当を差し入れした帰りに「落ち込んだ銀ちゃん」と再会する。
「なんだ何だこの腹は」
と銀ちゃんが言う。
「時々お腹蹴るのよ。あなたの蹴り方そっくり」
と言う小夏に銀四郎が急に指輪を嵌めて「プロポーズ」をする。
「車をうっ払って買っちゃったよ!」と笑う。
しかし小夏は「銀四郎」に結婚指輪を返す。
「どういうつもりだよ」と言う銀四郎。
「私、8ヶ月になってわかってきたの。女にはね、なによりもね・・いつも一緒にいてくれる人が一番なのよ。」
「銀ちゃん一緒にいてくれないじゃない!」
と泣きながら言う。
銀四郎は行く素振りを見せながら「俺は行くぞ! 止めねえのかって聞いてるんだよ。お前、俺の背中に浮かんでる孤独の孤の字が読めねえのかよ!」と叫ぶ。
「読めるわよ。でも止めるわけにはいかないのよ」と言われた銀四郎は「後悔するぞ!」と言い放つ。
「後悔するわよきっと。でも、さようなら!」
と涙ながらに「銀ちゃん」と決別する。
この「シーン」の小夏の台詞。
「女にはね、いつも一緒にいてくれる人が一番なのよ。」
と言う台詞があたかも彼女が言っているように思えた。
この言葉がやけに心に残った。
映画は、いよいよ佳境を迎えようとしている。
彼女の部屋でこたつに入ったまま二人で真剣に食いつくように見ていた。
彼女は何度となく涙を流していた。
僕も目頭が熱くなるシーンが何度もあった。
映画では、主役の座を奪われた銀四郎は、見せ場の一つ「階段落ち」のシーンも正式に中止が決定し、恋人も失い一人ぼっちでいた。
現場を放り出し行方不明になった。
慌てて撮影所の中を探す付き人たち。
すると「ヤス」が首を吊っているような人影を発見する。
「銀ちゃん! 」
と慌てて近づくと人形であった。
と後ろから声がする。
振り返るとやつれた「銀ちゃん」がいた。
「俺の変わりに、土方歳三に首を吊らせたのさ・・」と力なく笑った。
「俺が・・・階段落ちやります。」
ヤスは「銀ちゃん」の為に、階段落ちの斬られ役を引き受けるのだった。
高さ「10メートル」から階段を転げ落ちるのは「命懸け」である。
過去には「半身不随」になり車椅子生活を余儀無くされた先輩俳優の話しや「プロのスタントマン」さえ現場を見て「逃げて帰った」と言う話しを聞く。
監督は大喜びになり映画会社の上層部まで「ヤス」に感謝している中で「銀ちゃん」は「俺を人殺しにしやがって」と浮かぬ顔。
ヤスは飲んで酔った勢いで大勢の人を引き連れて自宅に戻る。
小夏は臨月を迎え大きな腹を抱えヤスが連れてきた人を追い返す。
人がいなくなると「ヤス」は堰を切ったように小夏に絡む。
この時の「ヤス」の心情を思い目から熱い物が流れた。
彼女もずっと泣き通しである。
映画は「階段落ち」に向けてクライマックスを迎える。
「銀四郎」「ヤス」「小夏」の3人が織り成す「役者」と言う世界を垣間見て、改めて「芸能界」で何かを残せるように成りたいと思った。
映画を見終わると涙を拭きながら「ね、いい映画だったでしょ? 」と彼女が言った。
彼女は「ヤス」が身体を張って仕事を取って来るシーンに感動したようだ。
「自分の為にああまでして仕事をしてくれたら、女は惚れちゃうよねー・・」
と彼女が感想を洩らした。
愛して身籠ったスターの「銀ちゃん」よりも一緒にいてくれるヤスに女心は動く。
当たり前と言えばそれまでだが、僕は「銀ちゃん」の方に憧れた。
そして小夏が言った「女にはね、なによりもね・・・いつも一緒にいてくれる人が一番なのよ。銀ちゃん一緒にいてくれないじゃない・・・」と言う台詞が心に刺さった。
「銀ちゃん」を「あきら」に置き換えれば、そのまま彼女の台詞になる。
高校を卒業してから、仕事やレッスンで一緒にいた時間は限られる。
そしてこの先も今の仕事を続ければ、一緒にいてあげられる時間は限られるだろう。
それでも今は辞める訳にはいかない。
彼女もそれは理解してくれている。
帰り際、彼女の家の前の階段を二人で降りた。
「いつかさぁ・・・小夏みたいに沢山の友達に祝福されてウェディングドレス着たいなぁ・・・」
と後ろを付いて来る彼女の声がした。
この時、何故かその言葉が「重荷」に感じた。
彼女の事は好きだが、今の僕には結婚を考える余裕はない。
「収入」も「地位」も無い。
「ジャニーズジュニア」として「ジャニーズ」に所属しているが就職したわけでも給与が貰える訳でもない。
宙ぶらりんの状態である。
「ねぇ、あの歌唄って」
と唐突に彼女が言った。
「あの歌? 」と聞き返す。
「私の為に作ってくれた歌」
「えっ・・今? 」
「うん。聞きたくなっちゃった。」
それは高校2年の時、初めて彼女とキスをした。
横浜の「山下公園」での思い出を作詞・作曲してギターで弾き語りをして彼女に聞かせた曲だった。
僕は口ずさむように歌い始めた。
「時よとまれ」
港の風が激しく君の髪を靡かせている
二人で歩いた「海岸通り」港へと続く道
冷たい世間から逃れてきたようで
思わず君を抱きしめた
「時よとまれ」
このままずうっと
抱きしめていたいのさ
「時よとまれ」
手を離せば
君が離れていく気がして
港の風が冷たく君の身体を冷やしていく
二人で歩いた「海岸通り」街へと吹き抜ける風
冷たい世間から逃れてきたようで
思わず君に口づけた
「時よとまれ」
このままずうっと
口づけていたいのさ
「時よとまれ」
手を離せば
君が離れていく気がして
「今でも同じ気持ち? 」と彼女が聞いた。
「ああ・・・」
「この時の気持ち忘れないでね」
「忘れないよ」
そう言って彼女の唇を唇でふさいだ。
通り抜けて行く北風がやけに冷たかった。
別れ際「笑顔」で「バイバイ」と言った彼女の顔が気のせいか、まるで泣いているように見えた。
今日は何位?↓
ジャニーズランキング
とても素敵な作品なので、ぜひご覧ください。
それにしても、この10年後に、作者の故つかこうへいさんの舞台「飛龍伝94’」に出演できるとは、この時は微塵も思わなかった。💦
■ この物語の始まり ■
■ 彼女との出会い ■
■ ジャニーズに入った時の話 ■