第123話「時代はサーカスの象に乗って’84」
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あの頃のジャニーズ 夢と彼女とジャニーズと [/box03]
寺山修司作「ロックミュージカル・時代はサーカスの象に乗って’84」に出演する事が決まった。
主役を演じるのは、あのスーパーアイドル「ピンクレディー」の「MIE」さんだ。
小学校時代。
「ピンクレディー」のファンだった。
デビュー曲から
「ペッパー警部」
「S・O・S」
「カルメン’77」
「渚のシンドバット」
「ウォンテッド」
「UFO」
「サウスポー」
「モンスター」
までドーナツ盤と言うシングルレコードを持っていた。
あの頃のピンクレディーは知らない人はいないと言う存在だった。
テレビをつければ必ず出ていた。
何と言っても、歌いながら踊る、激しく、時にはコミカルな振り付けが印象的だった。
テレビを見ながら誰もが、自然と振り付けを覚え真似て踊っていた。
小学校の謝恩会で僕は、クラス全員の前で「S・O・S」を1人で踊った事がある。
机を並べて作った舞台の上で3~4人で寸劇をやり、その流れで踊ったのだが、思いの外にウケた。
そんな憧れたスーパーアイドルと一緒に舞台に立てるのだ。
稽古内容や作品も良く解らないが、「オサラバ坂に陽が昇る」以来久しぶりにワクワクする仕事だった。
ジャニーズからは、鈴木則之君、柳沢超君、木暮毅君、そして僕の4人が出演する。
演出は萩原朔美さんで言わずと知れた萩原朔太郎のお孫さんである。
出演者にはそうそうたる顔ぶれが並んだ。
MIEさんを筆頭に、テクノポップで代表的なグループ、ヒカシューのボーカル巻上公一さん、当時バラエティーアイドルの草分け的存在であった、高見恭子さん。
天井桟敷のメンバーからは下馬二五七さん、蘭妖子さん、昭和精吾さん、若松武さん、福士恵二さん、が参加し、西郷孝昭さん、佐藤雅和さん、宇梶剛士さん、と言う役者さんに、女性ダンサーとして、望月江美さん、吉沢ゆかりさん、南潤子さんらが出演する。
南潤子さんは後に「南流石」と言う名前に改名して、一流振付家として大活躍をする事になる。
美術には、段ボールアーティストの日比野克彦さんが美術兼で出演。
また、公演中は毎日日替わりゲストが出演する事になっており、5月26日初日には、KINYAさん、そして、高橋章子さん、青島美幸さん、林真理子さん、高橋基子さん、如月小春さん、佐藤奈々子さん、そして6月2日夜には、おすぎさん。
千秋楽には、北村道子さんが出演する事になっていた。
舞台の稽古に出るのは初めてである。
9日間11公演の本番の為に、一ヶ月以上に渡って稽古をするのだ。
初日は、いささか緊張して稽古場に向かった。
山手線の五反田駅から徒歩で5分程歩くと、そんなに大きくないビルが見えてくる。
そのビルの地下1階が「時代はサーカスの象に乗って’84」の稽古場であった。
こんな所に、1流芸能人が来るのか?
と思わせるほどの、ちょっと薄汚れたビル。
そこで「ロックミュージカル、時代はサーカスの象に乗って’84」の舞台稽古が始まった。
交差点の信号を渡ってすぐにあるビルのガラス扉を開きエレベーターで地下1階に降りた所が稽古場である。
「おはようございます!」
と入って行く。
「おはようございます。」
と挨拶を返してくれる、スタッフや役者さん、ダンサーさんが既に来ていた。
早々に稽古着に着替えて挨拶をする。
「おはようございます。」
と挨拶を笑顔で返してくれた稽古着姿の「おじさん」がいた。
劇団天井桟敷の俳優「下馬二五七」さんである。
優しさのある笑顔で、少しずんぐりした体型であるが、ことのほか動作は機敏で声が通っていた。
いかにも「舞台俳優として生きてきた」と言うようなオーラを感じる。
何かをしでかしそうな雰囲気を持っていて、どんな役でもこなせそうな味のある俳優さんだった。
その近くに、すらっーとした白髪混じりの長髪の男性がいた。
俳優「昭和精吾」さんだった。
少し怖いと感じた。
ちょっとぶっきらぼうな感じだが役者さんらしいと言えば役者さんらしい。
その傍に、ひときわ背の高い2枚目な俳優さんがいた。
「宜しくお願いします!」
と言うと笑顔で「宜しく!」と返してくれた。
宇梶剛士さんだ。
がっちりした体型で、目鼻立ちのはっきりした男の目から見てもイケメンだと思える俳優さんだった。
ジャニーズにはいないタイプで兄貴と言った感じである。
その近くに、壁際で床に足を180度近く開いてストレッチをしている女性ダンサーがいた。
吉沢ゆかりさんと、南潤子さんだ。
プロの女性ダンサーは流石に身体が柔らかい。
その近くにジュニアの鈴木則行君もいた。
その近くに座って僕もストレッチを始めた。
どちらかと言えば、役者さんよりダンサーさんの方が取っつきやすい。
開脚して息を吐きながら胸を床につけるように折り曲げた。
女性ダンサーほど柔らかくは無いので、床にべったりと胸まではつかない。
それがちょっと悔しかった。
そこへ柳沢超君と木暮毅君が入ってきた。
大人の役者さん達の中に子供が入って来たような感じに見えた。
二人はまだ高校生だから無理もない。
回りから見れば自分もそう見られているかも知れないと思った。
役者さん達はそれぞれ強烈な個性を発揮している。
早口言葉をしたり、発生練習をしたり、今すぐにでも芝居が始まりそうな感じである。
ここにいるだけで楽しくなった。
「おはようございま~す!」
と高見恭子さんが入ってきた。
「テレビで見たまんま」
と言うのが第一印象で、手足が長くスレンダーな身体に長い髪がよく似合っていた。
屈託のない、明るさがとても魅力的だ。
そしてひときわ、大きな挨拶の声が聞こえた。
振り返ると、自分の記憶と一致するテレビで見たその人がいた。
「MIE」さんである。
優しそうな笑顔と、はつらつとした肉体美、芸能人特有のオーラが出ていた。
やはりスターが来ると稽古場全体が華やかになった感じがする。
個性的な出演者が揃いこれから何が始まるのかと、ワクワクしてきた。
出演者が全員揃った所で、演出家の萩原朔美さんが登場した。
ほっそりとして、痩せているが眼光鋭く、演出家としての威厳のような物を感じた。
挨拶や紹介などを済ませると早速稽古が始まった。
今回の舞台「時代はサーカスの象に乗って’84」は再演である。
初演に関して詳しくは解らないが、その時に演じた場面も何度も登場した。
その中でも印象的だったのは昭和精吾さんの「アメリカよ」だった。
「アメリカに対する思い」を切々と朗読していく。
昭和精吾さんはゆっくりとした確かな口調で語り始める。
吐き出す台詞には、その少しかすれた声と相まって、独特の響きを持ち、言葉の一言一言が心にストレートに伝わってくる。
いつしか早口言葉のような早さで喋り、絶叫しながらあたかも呪術をかけているような、感情的で少し暴力的な言葉でその思いを語りあげる。
アメリカに対する、複雑な思いが込められていた。
憧れの国でありながら、まだ敵国だった思いが見え隠れする。
何故かその思いに同調する自分がいて、膝を抱えながら聞いている内に、胸が熱くなり、感動すると共に「凄い! 自分もこんなに喋れるようになりたい! 」と思った。
アングラ演劇と呼ばれている世界に触れて、華やかなジャニーズの世界とは違う、人や物事を斜に見ながら語り、演じる世界の面白さに気がつき始めた。
そのアングラ演劇界を引っ張ってきた俳優さん達の中に、ジャニーズジュニアの鈴木則行君、柳沢超君、木暮毅君の顔が混ざり、MIEさんや高見恭子さんと言った有名な芸能人も混ざっているのだから、改めて凄い舞台になりそうだと思った。
時代はサーカスの像に乗って84’チラシ
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