第95話「ここが俺の家なんだ!」
[box03 title=”第95話「ここが俺の家なんだ!」”]あの頃のジャニーズ 夢と彼女とジャニーズと [/box03]
僕は右腕を庇いながら軽く動かしてみた。
肩はうまく入ったようだが痛みはある。
しかし撮影は分刻みのスケジュールで慌ただしく進行していく。
痛みを訴えた所でどうにもならない。
脱臼をしていたら治療法は固定して1ヶ月以上安静にするしかない事を知っている。
そんな事をしたら撮影が出来なくなる。
これから先の自分の身体の事よりも今の仕事の進行を妨げない事の方が大事に思えた。
だから脱臼の事は隠し通すしかない。
肩を押さえて軽く回してみたり、さすったりする僕の様子を見ていたスタッフが駆け寄ってきた。
「大丈夫か洋司? 肩やっちゃったか?」
と聞いてきた。
僕は肩をさするのを止めた。
「大丈夫です!」
と答えておもむろにディレクターの近くにある機材のそばに歩き出した。
そこにはモニターが置いてあり、今演じた演技をチェックしている。
画面越しからも迫力が伝わる映像だった。
逃げた僕を捕まえて投げ飛ばす。
すかさず手錠を取りだし手首に嵌める。
この時に脱臼していたとは普通に見ていたら解らないだろう。
固唾を飲んで回想シーンのモニターチェックに加わっていた。
チェックが終わるとディレクターが言った。
「オーケー!」
これでこのシーンは終了である。
「撮りなおしがない」と言う事に胸を撫でおろした。
後は翌日の夜に乱闘をするシーンがあるが、投げられはしないので懸念するほどではない。
むしろ1ページもある長台詞をきちんと言えるかと言うことのほうが気がかりだった。
右肩に鈍痛があるものの、激しい痛みと言う程ではないので、撮影には支障を来す事は無いだろう。
その後はパトカーの後部座席に乗って連行されるシーンの撮影と再びジープに乗って愛誠学園に到着するシーンを撮影した。
この日の撮影はこれで終了し溜飲を下げた。
帰宅するととにかく右肩をアイシングし、湿布薬を貼って痛みを和らげるようにした。
そして翌日。
肩をテーピングで巻いて固めて撮影に挑んだ。
夜の撮影は若葉寮生全員が集合する。
朝倉洋次の「兄貴が暴走族仲間と愛誠学園に洋次を迎えに来る」と言うシーンの撮影が始まった。
つまり兄貴が僕を迎えにきたのだ。
アニキ役の役者さんとはこの日が初対面だった。
若葉寮の前に暴走族が集合する。
そのリーダーが僕を連れ戻そうとする。
しかし僕は一緒に帰るのを拒み兄貴と殴りあいの大乱闘になると言うシーンである。
このシーンが今回の「第4話の要となるシーン」であり、一番の見所となるシーンでもあった。
この日の夜間撮影は、後日撮影される若葉寮に入った日の夜、寮生にリンチを受けて誰にも受け入れられていない朝倉洋次が兄貴の誘いを断り、ここに残ると言う心情を長台詞と芝居とで表現する難しい場面だった。
どっぷりと陽が暮れた相模湖ピクニックランドの中の若葉寮のオープンセットの前。
照明に照らしだされた中を何台ものバイクが爆音を立てて走り回っている。
矢崎滋さん、イルカさん、柴田恭兵さん、葉寮生全員、他の寮生も交えると総勢50人以上が見守る中での撮影だった。
白い特攻服をきた兄貴がバイクから降りて僕を見つけて歩みよる。
「洋次、なんだってこんな所にいるんだ!」
と近づいてくる。
「みんな親父が悪いんだ!迎えにきてやったよ!」
と洋次をバイクに乗せて連れて帰ろうとする兄貴。
「お前がドジだから捕まるんだ! 親父から金をふんだくって、楽しく暮らそうぜ!」
と言う兄貴に押さえていた感情が爆発する。
「帰れ!」
と言って兄貴を殴る。
不意をつかれて体勢を崩す兄貴。
だが直ぐに洋司を殴り返す。
皆が見ている前で取っ組み合いの喧嘩になる。
「俺は、2度とあの家には戻らねえよ!」
と、そう叫びながら殴るが段々と形勢は不利になり兄貴に打ちのめされる。
それでも喋り続ける。
「昔は家族みんなで笑って楽しかったよ! でも今はそんなものは何処にもねえ!」
と兄貴の目を睨み付けて言う。
家族である父親から金を巻き上げる事しか考えていない兄貴に腹が立ちそして虚しかった。
演じているうちに本当にそんな気持ちになった。
いつの間にか愛誠学園の寮生の間から「帰れ!」「帰れ!」のシュプレヒコールが沸き上がる。
兄貴に馬乗りになって殴られるが、しっかりと兄貴を見つめて家族が崩壊していった事を坦々と叫ぶ。
「俺には帰る場所なんかねえ! ここが俺の家なんだ!」
と言って兄貴を睨み付ける。
すると兄貴は殴るのを辞め、シュプレヒコールにみじろぎ、立ち上がり、あとずさりする。
「洋次の馬鹿野郎!」
と言ってバイクに跨がり兄貴は暴走族仲間と共に愛誠学園から去って行く。
喧嘩をしながら長い台詞を言うシーンでは声だけを後から別に録音した。
「アフレコ(アフターレコーディング)」と言うやつだ。
覚えた台詞をマイクに向かって坦々と語り、叫んで演技して無事に収録する事ができた。
こうして深夜にまで及んだ夜間ロケは無事に終わった。
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