第107話「ニートのような生活」
[box03 title=”第107話「ニートのような生活 」”]あの頃のジャニーズ 夢と彼女とジャニーズと [/box03]
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秋の風が吹き始め瞬く間に寒さも増して来た。
時が経つのは早い。
TBSのテレビドラマ『オサラバ坂に陽が昇る』が終了しジャニーズジュニアとしてダンスレッスンに出始めると、今度はすぐに同じTBSのテレビドラマ『噂のポテトボーイ』に準レギュラーとして出演が決まった。
30分番組と言う事もあり出番はあまり無いが、それでもドラマに出て仕事をしていると言う満足感は多少なりともあった。
そして単発ではあるがオールスター寒中水泳大会などにも出演して、少なからず芸能活動をして芸能界で働いている気にはなっていた。
しかし、収入は無いに等しい上に毎日仕事がある訳では無い。
2日、3日と仕事が無いと気持ちも凹んでくる。
そんな折、出演したテレビドラマ『噂のポテトボーイ』が放送されたが、評判は芳しくなかった。
反響もない。
それどころか暫く出番すら無かった。
毎日仕事がある訳では無いのだから融通のきくアルバイトを探せば良いのだろうがその気になれない。
まず履歴書を書くのが億劫になる。
職歴の欄に高校卒業の後にジャニーズ事務所入所中とでも書くのだろうか?
また面接で「ジャニーズなので事務所から仕事の連絡があったら直ぐに休ませて下さい!」とでも言うのか?
ジャニーさんやジャニーズ事務所からいつ連絡が来るか解らない。
「ユー! 明日は大丈夫?」
とジャニーさんに言われた時に即答で「大丈夫です!」と答える為にはスケジュールを開けておきたい。
まさか「アルバイトがあるから行けません」とは言えない。
それに僕には家庭の事情もあった。
家は両親が共働きで明治生まれのお婆ちゃんしかいない。
耳も少し遠く、山形訛りで電話に出てしまうと面倒な事になりそうだった。
用件を把握出来ず、こちらから折り返しできる電話ならともかくテレビ局やそれ以外からの電話が来てばあちゃんが出てしまったらアウトである。
そんな理由もあり引きこもりのような、ニートのような状態で電話待ちをしていた。
しかしそれでも腐らずにいれたのは彼女の存在が大きかったからだ。
彼女との連絡は2日に一回はしていたが3回目の秋を迎えて少しトーンダウンしている感じは否めない。
社会人になった彼女とジャニーズで夢を追っている自分には温度差がある。
彼女はミーハーな所もなくアイドルにもテレビにも興味が無い。
彼女と僕はジャニーズに入る前からの付き合いであり、ジャニーズに入っている事はむしろ彼女は歓迎していなかった。
付き合っていて感じたのは「一緒にいたい!」と言う思いや「愛されている!」と言う実感だ。
そんな彼女に「仕事が4日無いからプー太郎みたいだ!」と珍しく電話で愚痴をこぼした。
すると「夢を追っているんだし、それなりに仕事してるんだから、プー太郎じゃないでしょ! あきららしく頑張れば結果はついてくるよ! 暫くは私が食べさせてあげるから落ち込まないの!」と励まされた。
そんな言葉に救われながらも稼げないと言うもどかしさは消えなかった。
そんな僕を心配したのか、彼女が会おうと言ってきた。
土曜日の昼下がり二子玉川にある喫茶店に彼女と対面して座った。
「思ったより元気そうじゃん!」
それが彼女の第一声だった。
「まあ、元気は元気だけどさあ~」と言う。
ウェイトレスが水を運んで注文を取りにきた。
「私、レモンスカッシュ! 」と元気良く応えた。
「アイスコーヒー下さい!」と僕は言った。
ウェイトレスが立ち去ると、両肘をテーブルの上に乗せて半身ほど乗り出してジッと僕を見ている。
大きな瞳が好奇心に溢れていた。
卒業してから、ゆっくりと面と向かって話すのは久しぶりだった。
改めて「可愛いいなぁ」と思ったが、ずっと見つめられるのは照れ臭い。
「顔に何かついてる?」と聞いてみる。
黙って首を横に振った。
「何?」
「変わってないなーって思って」
「?」
「あきらの仕草も表情も私と出会った時のまま!」
「成長してないって事?」
「そうじゃなくって、付き合い始めた頃のままだよ。私の気持ちもね! 私はあきらになりたい自分になって欲しいだけ。夢を持って、夢に向かって頑張っているんだから!」
ウェイトレスがレモンスカッシュとアイスコーヒーを運んできてテーブルに置いた。
彼女は包装紙からストローを取りだすとグラスに差し込んでそのまま吸い込んだ。
「酸っぱーい!」
顔の表情が変わるのがとても愛らしかった。
そんな彼女を見ながらアイスコーヒーをそのまま飲んだ。
「うぇー、ガムシロップもミルクもいれないの?」と見るからに苦そうな顔をして聞いてきた。
「苦いのがうまい!」
喉の奥に染み込んでいく苦さが今の自分の気持ちのようだった。
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